後編はこちらから: 《後編》MCクリーブランドレポート -グルールアグロ徹底解説-

こんにちは、高尾です。

『GPメンフィス2019』および『MCクリーブランド』に参加してきました。今回はこの2つの大会とそこで使用したスタンダードのデッキにフォーカスを当てて綴っていこうと思います。月末には『グランプリ京都2019』も控えているので、それに参加される方の参考になればと思います。
※ミシックチャンピオンシップという名称に変更された元プロツアー。今回はアメリカのクリーブランドという地で開催された。


~GPメンフィス編~



1.参加に至った経緯


『GPメンフィス』は『MCクリーブランド』の前週に開催されたグランプリです。『GPメンフィス』への参加を検討するにあたり、メリット・デメリットを洗い出しました。

▼メリット
・『MCクリーブランド』の前週にその近郊で開催されるため交通費が加算されない。
(飛行機での移動だが予算内であればウィザーズから支給される)

・『MCクリーブランド』と同じ構築フォーマットであり、デッキを試す場としてちょうどいい。

・万が一、準優勝以上の成績を残せれば、『MCクリーブランド』で12勝4敗することでゴールドレベルになれる。

・次回の『MCロンドン』はシルバーの権利を行使すれば参加できるが、交通費が高く航空券が欲しかった。

・Cygames様のご厚意でメンフィス滞在中の宿を提供して頂ける。

・一週間前から滞在することで時差ボケを解消できる。

▼デメリット
・この大会で勝って目立ってしまった場合にリストがばれ、『MCクリーブランド』で多少なりとも意識される。

・追加で1週間の休みが必要。

このように僕にとっては参加することのメリットの方が遥かに大きかったことから参加を決意しました。

結局、『チーム武蔵』(公式サイト)調整グループの12人(原根健太、石村信太朗、浦瀬亮佑、宇都宮巧、川崎慧太、高尾翔太を含む)のうち、8人が参加表明したことでドラフト卓を囲めるのも功を奏しました。これまでプロツアー直前は構築ばかりに力を注ぎ、ドラフトの感覚が鈍って本番で失敗してきたので、毎日ドラフトできる環境があることはとても恵まれています。

そしてその宿をCygames様に提供して頂いたことは感謝してもしきれません。この場を借りて厚く御礼申し上げます。また、長きに渡る休みをくれた会社にもとても感謝しています。


2.メタゲーム予想


さて、僕が予想したGPメンフィスのメタゲームはこのようなイメージでした。

Tier1:スゥルタイミッドレンジ、白単アグロ(タッチ青含む)、赤単アグロ

Tier2:青単アグロ、ネクサス系、エスパーコントロール、イゼットドレイク

スゥルタイは前環境王者であるゴルガリの後継者として依然多い認識です。

そして特筆すべきはアグロデッキの隆盛です。ゴルガリは色を増やしたことで同系やコントロールに対してより消耗戦で粘り強くなりましたが、その反面ショックランドからいつもより4点ほど多くダメージを受けたり、タップインが連続したりと明確にアグロ耐性が下がってしまいました。そのせいか白単、赤単、青単の3大アグロはMOでもMTGAでも多く見かけるようになりました。


ネクサス系デッキは可能性はあるものの、まだまだ発展途上でさほど多くないと予想。

エスパーコントロールは武蔵の調整でも"最も安定性に難あり"という結論が出ていたのでそこまで多くないと判断。

イゼットドレイクは赤単と青単以外に有利なデッキが少ない上に、非常に高度なプレイスキルが要求されるデッキなのでこれまた使用者は少ないと考えました。


3.デッキ選択理由


突然ですが以下の2つの記事を覚えていますでしょうか?

『ラヴニカの献身』注目のカードTOP5
スタンダードで評価の上がりそうなカード十選

僕の一番の注目株である《成長室の守護者》、そして評価の上がりそうなカードとして第3位に挙げた《手付かずの領土》


これらを使ったデッキが今回選んだグルールアグロです。

最初は《手付かずの領土》だけに焦点を当てて構築をスタートしました。記事でも述べていたように《ザル=ターのゴブリン》《グルールの呪文砕き》《ゴブリンの鎖回し》の共存を成立させることが可能になります。"ゴブリン"を指定すれば《ザル=ターのゴブリン》《ゴブリンの鎖回し》が唱えられるようになりますし、"戦士"を指定すれば《グルールの呪文砕き》《ゴブリンの鎖回し》が唱えられるようになります。


緑マナなくして《手付かずの領土》だけで《ザル=ターのゴブリン》《グルールの呪文砕き》の両方を唱えることはできないので、ちょっと無理したマナベースに見えるかもしれません。

ですが思い出してみて下さい。かつてイニストラード+ラヴニカへの回帰ブロックのスタンダード環境で最強と謳われたラクドスアグロを。


サンプルレシピ『ラクドスミッドレンジ』
GPチャールストン2012 優勝 Jon Bolding



24
4枚 4枚 4枚 4枚 7枚 1枚






26
4枚 4枚 4枚 4枚 4枚 3枚 3枚


10
4枚 2枚 2枚 2枚






15
3枚 2枚 2枚 1枚 2枚 2枚 3枚

このデッキはゾンビと騎士と吸血鬼とデビルとドラゴンが共存し、黒黒黒と赤赤を要求するにも関わらず4枚の《魂の洞窟》でさほど不便なく回っていました。それを思えばダブルシンボルのないゴブリンと戦士指定のデッキなんてマナベース警察が出動する理由は皆無なんです。※
※"マナベースに物言いが入ることはないだろう"という意味。

ではそもそも《ザル=ターのゴブリン》《グルールの呪文砕き》を使うメリットは?赤単でいいのでは?そこまでして共存させるメリットはあるのかと疑問に思う方も多いと思います。

話は少し逸れますが前環境でビッグレッドというデッキがありました。《ゴブリンの鎖回し》《再燃するフェニックス》《包囲攻撃の司令官》という3枚のパワーカードを従え、序盤は火力と《宝物の地図》で安定を図ります。


僕はこのデッキの構成があまり好きになれませんでした。《溶岩コイル》《ヴラスカの侮辱》を打ちたい対象が少なく、《再燃するフェニックス》はその恰好の的です。《再燃するフェニックス》をより生かすためには序盤からクリーチャーで畳み掛けるのが最も有効な手段です。

それは《屑鉄場のたかり屋》がいた頃の赤黒アグロで実証されています。ですがビッグレッドのような赤単色ではどうしても低マナ域の人材が不足しており、バーンのようなデッキならともかく《再燃するフェニックス》を使った太いアグロは成立しません。


こうして2種のグルールクリーチャーをタッチした前のめりな構築に変化を遂げたのです。

最初は土地が少なめで《狂信的扇動者》《遁走する蒸気族》が入っているだいぶ軽めの構成でした。しかし前者は《ショック》と役割がかぶる割にアタッカーとしては不十分で、後者は《ザル=ターのゴブリン》とどちらを先に出しても出さなかった方のバリューが下がるという大きな欠陥を抱えていました。

また、マナフラッド受けが皆無で少し捌かれるだけであっけなく負ける展開が続いていました。こうして採用されたのが《成長室の守護者》です。《ゴブリンの鎖回し》と同じ戦士なので少し緑マナを増やせば無理なく運用できました。《手付かずの領土》だけでは能力を起動できないのが惜しいところですが、中盤までに引けば問題ありません。


最終的に『GPメンフィス』前に完成したリストがこちら。


『Rg Aggro(GP Memphis)』
高尾 翔太



24
4枚 4枚 2枚 4枚 9枚 1枚






26
4枚 4枚 3枚 4枚 4枚 4枚 3枚


10
4枚 2枚 2枚 2枚






15
1枚 3枚 2枚 3枚 1枚 2枚 2枚 1枚

武蔵の調整やMOで調整していると自然と特定のデッキに強くなっていました。サイドボードを含めた各マッチアップとの相性はおよそ以下のような認識です。

有利:白単、青単、赤単、イゼット
五分:ネクサス系
不利:スゥルタイ、エスパー

これまで3大アグロに対して明確に有利を取れるデッキが存在しなかったのでアグロを選択するプレイヤーが多い可能性は非常に高く、それらを食い物にできるグルールは良い立ち位置にいる確信がありました。

不利なスゥルタイとエスパーに対してもサイドからの《ウルザの後継、カーン》《不滅の太陽》で改善させています。《ウルザの後継、カーン》《不滅の太陽》で動かなくなるけど大丈夫?と思うかもしれませんが、《ウルザの後継、カーン》は十分仕事を終えている頃ですし《不滅の太陽》が残っていればどちらにせよ勝てるので全く気にならないレベルです。


ちなみに青単に対して最強と言っても過言ではない《クロールの銛撃ち》が戦士であることも地味に見逃せない点です。



4.大会結果


Round1 : Bye
Round2 : Bye
Round3 : エスパーコントロール ×○○
Round4 : エスパーコントロール ×○○
Round5 : グリクシスコントロール ○××
Round6 : 赤単アグロ ○○
Round7 : エスパーコントロール ○○
Round8 : 白単タッチ青アグロ ×○○
Round9 : スゥルタイミッドレンジ ○○
Round10 : 青単アグロ ○○
Round11 : 青単アグロ ×○×
Round12 : スゥルタイミッドレンジ ○○
Round13 : 青単アグロ ○○
Round14 : 白単タッチ青アグロ ○○
Round15 : ID
準々決勝 : 白単アグロ ○○
準決勝 : ラクドスミッドレンジ ××

エスパーやスゥルタイといった苦手なところに複数回当たりつつも、アグロもしっかり踏んでTOP4という望外な成績を収めることができました!


準決勝で敗れたラクドスミッドレンジに関しても、1本目は除去2枚と《再燃するフェニックス》という初動が遅い手札をキープした結果《宝物の地図》にリソース差で負け、2本目はダブルマリガンで敗北しました。

ちなみにグランプリ後に武蔵調整メンバーとメタゲームを振り返ってみたところ、僕の予想は少し外れて実際は赤単アグロはかなり少なく青単アグロは圧倒的に多かったことが発覚しました。ただしグルールアグロ視点だと、どちらが多くても少なくてもあまり関係ないのは幸いだったと言えます。


GPメンフィス編はここまで!近日中にMCクリーブランド編をお届けします。

デッキ選択の影に潜む罠、盲点...。心のどこかにもやもやとした不安が残りつつも強行突破した結果は如何に...?過ちや反省を中心に綴っています。その他にもグルールアグロ最新のリストとサイドボーディングガイドもありますのでお楽しみに!

後編はこちらから: 《後編》MCクリーブランドレポート -グルールアグロ徹底解説-